第6章

「お金とは何か」(2)お金とは何か

 次に、お金の本質をつかむために、お金の歴史について簡単に考えてみる。

 まだ世の中にお金がない時代には、生活に必要なもののほとんどは小さなコミュニティ(生活共同体)の中で調達し、コミュニティの中で調達できないものは、外のコミュニティとの間で物々交換をして手に入れていた。しかしこれではさまざまな不便があり、お金が発明された。

 最初のうちは、生活必需品で比較的保存が利く穀物や布などがお金として使われた。その後、生活必需品ではなく希少価値があって保存性が良いタカラ貝などが取って代わり、金属の鋳造ができるようになってからはコインが使われるようになり、現在につながっている。

 コインは当初、金や銀など希少な金属が含まれ、コインを溶かしても価値が保たれるように作られていたが、その後もっとありふれた金属が使われるようになっている。さらにたくさんのコインを運ぶのが大変なので、「コイン預かり証」が紙で発行されるようになり、それがその後どこでも通用する「紙幣」になっていった。このような経過をたどって、現在お金は「物と交換できる価値がある」と社会の中で認識されている。

 お金の普遍的な価値を社会が認めるようになるにつれ、お金はさまざまな「価値」に対して支払われるようになった。たとえば人間の労働に対しては「給料」として支払われるようになった。給料を払うには、社長がそのお金を持っていなければ払えない。ということで、まずはお金を持っている人が、人を雇うことができるようになった。

 お金を持ってはいないけれど、お金儲けの才能がある人はいる。そういう人が会社を興して人を雇えるようにしたのが「株式会社」などの仕組みだ。社長は株式を発行して売り出し、買ってもらったお金を元手に事業をする。つまり株主にお金を貸してもらって、儲けることで株主に配当や株価上昇などの恩恵を与えるという互恵関係が成立する。しかし最近の株式会社の一部は「株主の利益の最大化」が目標になっており、そのために労働者の給与を圧縮したり商品の価格をつり上げたり短期の業績向上ばかりを狙ったりと、倫理を欠いた企業が横行する事態となっているのは問題だと思う。

 少し話がそれた。

 通常「お金」といった場合、リアルに想像されるのはコインと紙幣だ。しかし現代社会では、その他にもたくさんの「お金の形」が存在する。そのお金は、通常はコインや紙幣と同じように考えてほぼ差し支えないものだ。たとえば銀行に預けてある預金もそうだし、クレジットカードによる支払いもそうだし、お店で買い物をすると貯まるポイントも、お金と互換性があると考えて使っている。これらは目に触れる時には「ただの数字」なのだが、いつでもお金や商品に換えられるので、百万円の札束と貯金通帳の中の百万円は同じ価値を持っていると一般には考える。

 最近では、クレジットカードやインターネットバンキングなどの電子的な決済が増え、たとえば銀行間で巨額の取り引きがあっても、それだけの現金が移動するわけではなく、払うべきお金と受け取るべきお金の差額だけやり取りすれば良い。個人で物を買う場合でも、クレジットカードで買った場合は店と客の間では現金は不要だし、クレジットカード会社も店に数字を振り込むだけだし、個人の支払も銀行からの引き落としだから、現金は移動しない。給与も振り込みがほとんどだ。

 つまり現代は、取引の額に比べて、コインや紙幣などの現金を必要とする割合が少なくなってきているといえる。世の中の全てが電子決済となれば、現金は不要になる。つまり日本の経済にとって、どれだけの現金が発行されて出回っているのかということは、経済の規模や活動とは直接は関係ないことになる。「日銀が円を刷らないから、日本はデフレから脱却できないのだ」という意見があったが、デフレから長期脱却できなかった原因は、ここでは述べないが、通貨の流通量とは別のところにある。

 ところで、お金を勝手に作ると、どこの国でも厳しく罰せられる。なぜなのか考えてみる。誰でもお金を作ることができたら、世の中全ての人がお金持ちになることができてしまう。しかし世界中で生産できるものには限度があり、みんなが物を買うのに湯水のごとくお金をばらまけば、全ての物の値段がどんどん高くなっていく。これがインフレーションといわれる現象で、物の値段が高くなるということは、逆にいえばお金の価値が低くなっていくということでもある。そうならないためには、お金の総量はコントロールされなければならない。

 お金の総量をコントロールしながらお金の価値を保障するために、コインや紙幣は国または国に準ずる機関が発行することになっている。日本では中央銀行である日本銀行だけが紙幣(日本銀行券)を発行し、市中に流通させている。余談だが、日本銀行は国の機関だと思っている人が多いかもしれないが、日本国政府からは独立した法人で、株式に当たる出資証券はジャスダック証券取引所で取り引きされている。

 各国の政府や中央銀行は、自国の通貨の価値が保たれるように、お金の量をコントロールすることをはじめとして、さまざまな作戦を駆使している。一部には国内のインフレには目をつぶって、輸出産業が少しでも楽になるように通貨安政策を取り続けてきた韓国や中国のような国もあるが、安値に誘導はしても暴落はしないように常にコントロールしている。お金の総量をコントロールすることによって、通貨の価値が保たれるというのが、一般的な認識である。しかし最近は、通貨の価値を中央銀行や政府がコントロールするのが、次第に困難になってきている。それは何故なのか、次の章で考えてみる。



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