第2章

介護労働にはどうやって報酬がつけられているか

 さてそれでは、介護という労働に対しては、日本ではどのように経済的価値がつけられてきたのだろうか。実は比較的最近まで、日本では「介護労働」という概念が確立していなかった。高度経済成長期には、日本の経済は拡大し続け、国民皆保険となった公的医療保険で今の介護分野までを十分カバーできていたため、介護を医療から切り出して考える必要がなかった。

 しかし「このままでは医療費が日本経済を食いつぶす」という「医療費亡国論」を1983年に当時の厚生省医療局長が発表し、「医療費を減らさなければいけない」という意見が現在に至るまで台頭し続け、その中で、介護を医療の中から取り出して別会計にする「介護保険」という仕組みが2000年(平成12年)から実施に移された。当初は混乱もあったがその後定着し、今では「介護が必要なら介護保険を利用する」のが当たり前になっている。

 介護保険は、実際に利用する時の1割(平成27年8月から所得によっては2割)の自己負担を除いて、40歳以上の国民全体で半分を賄い、残りの半分が税金からの拠出で運営されている。介護保険料も、公的医療保険と同様に、高齢化による保険料の高騰が懸念されている。介護保険料は、給与所得者の場合は事業主と折半で個人負担分は給与から天引きされ、年金受給者の場合は年金から天引きされるなどして徴収している。

 余談になるが、この保険料は65歳以上の全国平均で見ると、平成12年からの第1期は月額2,911円だったが、平成24年からの第5期では4,972円と大きく増加しており、40歳から64歳までの事業主負担も同様に増加している。このペースで増加してきていれば、企業も個人も保険料支払いをケチりたくなって当然である。

 このように見てくると、介護労働に対する対価というのは、半分は税金から、半分は医療と似た保険方式で生み出されていることになる。物を売り買いするのとは違い、介護を受ける人は、介護労働を「買っている」という感覚はほとんどなく、介護が必要だから介護保険に「世話になっている」という感覚だと思う。そしてこの介護労働に対する報酬は、個人や企業からの保険料と、広く国民から集めた税金から生み出すしかないと多くの人が信じている。ここまでは何とかそれで生み出せていたが、需要が確実に増加する将来も持続可能なのかどうかは、誰にもわからない。わからないから多くの人が不安になっている。

 介護という労働が提供された時に、その報酬をこれまでの経済の枠組みの中で広く集めた中から支払うというのが、果たして適切なのか。物を売る商売と比べると、あまりに価値のつけ方が異なっていることが、介護を苦しい立場に追い込んでいるのではないか。この苦しい立場を抜本的に抜け出すには、介護労働に対して価値を与える「新しい仕組み」を考え出す必要があるのではないか。そのあたりが、今回の仕組みを考え出す下地になっている。



「第3章 高齢化と介護の将来、何が問題か」に進む
inserted by FC2 system