第4章

新しい経済の仕組みを考える

 ここまで考えてきて思ったのは、介護労働に適切な対価を与える仕組みは、まだ世の中に存在していないようだということである。さまざまな工夫で対価を与える仕組み、たとえば介護保険とか、たとえば北欧の重税とか、世界各国の消費税の仕組みなどはある。しかしそれは、「これまでの経済の枠組みの中」で対価を絞り出す仕組みであって、高齢化が進むなど社会構造が変わっていくと、どこかに無理が生じ、不満が高まる仕組みであった。

 あれやこれやと考えているうちに、一つのアイディアがひらめいた。それは、努めてシンプルに表現すれば「介護労働をしたら、そこにお金が発生する」仕組みを作ればいいのではないかというアイディアだ。どこかから持ってくるのではなく、社会を豊かにする労働をしたら、そこに経済的価値が「生み出される」仕組みを、新たに社会の中に付け加えるということだ。

 現在の経済の仕組みでは、お金を生み出すことができるのは「国」だけである(実際はそうではないということを第7章あたりで解説する予定であるが、表向きお金を発行することができるのは国、またはそれに準ずる機関だけである)。それなら、介護労働に対して国が直接お金を与える仕組みを作ればいい。というと「介護保険や税金バラまきと同じではないか」と思われるかもしれないが、今回の仕組みはそのような「どこかから持ってきたお金を介護報酬とする」のではない。介護労働は「国の中で価値のある(GDPを増やすに値する)労働をした」と捉えて、新しくお金を刷って渡すという仕組みを作ったらどうかと考えている。

 とはいっても、国が介護労働をした人に、新しく刷ったお札を配って歩くという原始的な仕組みを考えているわけではない。国は介護労働を正しく評価する仕組みを作り、その人の口座に労働に応じた数字を振り込み、一方ではそれが引き出される時に備えて新札を印刷して用意しておくというイメージだ。このような仕組みを作ることで、国は税金や保険料に頼らずに、介護労働の報酬を生み出すことができる。介護に関しては、社会保障費の増加が経済や財政を圧迫するなどという心配をしなくてすむようになる。

 こう書くと、「それって詐欺みたいなものなんじゃないの?」とか、「ルール違反、禁じ手なんじゃないの?」という疑問が湧く人も多いだろう。私もこのアイディアを思い付いた時には、同じような疑問を持った。しかし考えるほどに、捨ててしまうには惜しいアイディアに思えたので、お金が生み出される仕組みや、現在の経済がどのような構造になっているかなど、さまざまな「これまでの仕組み」を探ってみた。

 さまざまなパターンで思考実験を繰り返してみたところ、この方法は「これまでのルールでは禁じ手かもしれないが、これを認める新しいルールを作る方が、世界の将来にとって幸せである」と考えるに至った。具体的な実現方法は第8章以降で述べるが、そう考えるようになった思考過程を、迂遠で申し訳ないが大切な前提なので、第5章から第7章で示してみる。



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